幻の海|NAOYA OHKAWA

牛に引かれて並木を行った。
牛の背中には、体温を下げるためか直射日光を避けるためか、またはどちらもの理由で、びしょびしょの布がかけられている。
たまに、牛が尾でその布を払い落とすが、牛引きの男がそれに気づかないので、牛車から降り背中に掛け直してやった。
びしょびしょに濡れて汚れているので、布をつまむのがなんとも言えず気持ちが悪い。
それを何度か繰り返して、やっとゆっくり外を眺めると、並木の向こうがひらけていて、小さな小屋が立っていた。

僕は牛車を降り、小屋の方へ写真を撮りに歩いた。
帰りしな、花の写真を撮ったり花の匂いをかいだりしたが、簡単に牛車に追いついた。
牛がまた尾で布を払い落とす。
牛引きの男は気付かず前を向いている。

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